WXBC人物図鑑<第1回>

気象データは様々なビジネスで活用されています。【WXBC人物図鑑】では組織の中で気象データを活用した業務に取り組む様々な人にフォーカスを当て、経歴や業務内容、今後の展望などを紹介します。第1回は、株式会社ローソンの石川さんです。

株式会社ローソン 商品本部発注DX推進部 シニアマネジャー

【主な経歴】
大学院修了後、小売企業に入社
2015年 株式会社ローソン入社
販売実績や気象データなどを活用した売上予測に取り組む
2024年 食品廃棄削減と利益改善のための、AIを使った値引き販売システムを導入

心理学を専攻していました。人間がどのようにものごとを決めているのか、人間としての個性はどこから来ているのか、といったことに興味があって心理学を学び、国内の大学、大学院に通った後、海外の大学にも行きました。その後、28歳ごろに小売業の会社に就職しました。

就職の際に小売業を選んだ理由はなんですか。

心理学を学ぶうえで必要だった統計とデータ分析の知識を使える業種として、小売業を選びました。当時はまだビッグデータという言葉もない時代でした。
正直、自分が小売業で働くとは思っていませんでしたが、学生時代、マーケティングの授業で、データを活用した効率的なダイレクトメールの送り方なども勉強したことがあったので、考えてみると小売業は身近だったのかもしれません。その後転職し、2015年にローソンに入社しました。

気象データとのかかわりはいつごろからでしょうか。

ローソンに転職してからです。店舗ごとの商品の売れ行きには天候が大きく影響しており、商品の需要予測システムに携わったのが、気象データとの出会いです。

今のお仕事では気象データをどのように使っていますか。

商品の需要予測を考えるとき、私たちは商品を2つの種類に分けています。一つは、お菓子や日用品など、概ね店舗での販売日数が1週間以上になる商品群。もう一つはおにぎりやパンなど、販売日数期間が数日から概ね1週間未満であるような商品群です。どちらの商品群にも天候が影響するのですが、特に、販売日数が短い商品群については、天候が店舗での売れ行きに対して、より大きな影響を与えます。
廃棄を抑えつつ、一方でチャンスロスも抑えるというバランスをとって利益を最大化するために、商品ごとの過去の販売実績と気象データの関係などを分析し、店舗での発注や値引きに活用しています。

扱う気象データは具体的にどのようなものでしょうか。

気象情報会社から過去の気象データと未来の予報データを購入しています。まず商品の需要予測モデルを作る際に過去の気象データを利用します。この需要予測モデルに、天気や降水、気温などの予報データを当てはめて、商品の需要予測を行います。今は需要予測システムに、気象データを自動で取り込むようにしています。

学んだことを活かせる道はいろいろある。

気象については独学で学ばれたのでしょうか。

独学と呼んでよいのかわかりませんが、気象関係の本を何冊か読みました。私が携わる前のシステムでも気象データを使っていたので、一からシステムを作ったわけではありません。また、協力会社の方々と一緒に作っているので、私が全てを理解しているわけでもないです。

学ぶ中で感じたことはありますか。

私が読んだ気象の本にも、ビジネスへの気象データの活用に関する情報が載ってはいましたが、それほど詳細なものではありませんでした。我々のようなユーザーからすると、もっと具体的に深く知りたいです。
また、気象データをシステムに取り込むのは、社内の情報システムのメンバーが実際の担当となりますが、一方で、実際の予測精度とモデルの妥当性については私も関わっていく、というシステム構築に関わる仕事の進め方は簡単ではありませんでした。このような事例はなかなか書籍にはないのではないかと思います。

気象学や気象データに興味を持つ若い方に一言ありますか。

私の今の仕事は、学生時代に勉強した心理学の知識をそのまま使えるわけではないですが、学んだことが生かせる場面も多く、ある程度応用がきくと思っています。
気象を勉強している方だと、気象関連の仕事に就きたいという思いは当然あると思いますが、私たちのように気象データをビジネスに活用している会社もあります。データサイエンス関連の業務では気象データを扱うことも多く、そこまで範囲を広げると、様々な選択肢が出てくるのではないでしょうか。 私自身も卒業後の就職については悩んだ時期がありましたが、学んだことを使える道は案外いろいろあります。もしご縁がありましたら、ぜひローソンも選択肢のひとつに入れてください(笑)。

目指すは働いている人が楽しくなる店づくり

これからは、どんなことに取り組んでいきたいですか。

気象データとは少し離れますが、働き手不足の問題に取り組んでいきたいと考えています。様々なバックグラウンドを持つ方々にスタッフとして働いてもらうために、例えば文字の大きさであるとか、経験の浅いスタッフでも扱いやすいような仕組みや表現など、積極的に取り入れていきたいと考えています。

今後コンビニエンスストアはどのように変わっていくのでしょうか。

これからは、機械ができることは機械にまかせて、人しかできないことを人が行うようになっていくのではないでしょうか。そうなると、働くスタッフに求められるのは、人と接したり感謝を伝えたりすることになると思います。
また、来店されるお客様も、働いているスタッフも、楽しくなるお店を作りたいと思っています。スタッフが余裕を持って働くことで、笑顔があふれる店となり、その結果、売り上げもあがる。そういう好循環が生まれる仕組みを作っていきたいです。