事例インタビュー<第一回>

「事例インタビュー」は、気象データを実際に活用されている企業様等へのインタビュー記事です。
本ページ末尾のフォームから、企業様への問い合わせも可能となっています。ぜひご活用ください。

~気象データを分析に活用~ コインランドリー向けプラットフォーム「Smart Laundry」とは。

  • 株式会社wash-plus 様
  • Weather Data Science合同会社 様

IoT技術を搭載した最新のコインランドリー向けシステム「Smart Laundry」は、リアルタイムでの洗濯乾燥機の空き状況の確認や、オンラインでの機器管理ができる他、利用状況データや気象データなどの各種データを分析することで、ダイナミックプライシングを可能としています。
データ利活用事例インタビュー企画第1回は、「Smart Laundry」を開発・提供する株式会社wash-plusでシステム開発を担当する加藤雅史様と、気象データを含むデータ分析をサポートしたWeather Data Science合同会社 加藤 芳樹様、加藤 史葉様ご夫妻にお越しいただき、「Smart Laundry」を始めたきっかけや、Weather Data Scienceとの出会い、役割分担、データ活用の効果などについてお話を伺いました。

※以下、「WDS」:Weather Data Science合同会社様、「wash-plus」:株式会社wash-plus

●本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。まず初めに、それぞれの事業のご紹介をお願いします。

【wash-plus 加藤様】
弊社は、従来の常識にとらわれない発想でコインランドリー事業を展開しています。

洗剤を使わず、アルカリイオン電解水だけで衣類を洗浄する方法は、これまでのランドリーにはなかった技術で、肌に優しく、また水資源や環境にも優しい洗濯を実現しました。また、コインランドリー機器とスマートフォンアプリを連動させた「Smart Laundry」は、お客様がアプリを通して空き状況の確認やクレジットカード決済、ドアロック、終了通知の受け取りなどができます。また、オーナーにとっても、機器のリモート管理による省人化や、利用データを活かしたお客様へのセール情報の提供などができます。

【WDS 加藤ご夫妻】
弊社は、20年以上の気象業務キャリアとデータサイエンスの知見を生かし、気象データを活用した分析やAI開発などを行っています。二人組織だからこその身軽で柔軟なフットワークで、気象に左右されやすいビジネス課題に対して、丁寧にヒアリングなどを行いながら、クライアントと共に課題解決を目指しています。

wash-plus様に「Smart Laundry」について伺います。サービスを始めたきっかけ、サービスの特徴、他の類似サービスとの相違点について教えてください。

【wash-plus 加藤様】
弊社代表の高梨が、地元・浦安市の不動産会社を父から受け継ぎましたが、2011年の東日本大震災での液状化により、浦安市内の不動産事業一本では難しくなったため、所有していた不動産物件を活用してコインランドリー事業を始めたのがきっかけです。
コインランドリー事業は初めてだったので、機器メーカーと相談しながら進めましたが、洗剤を使わずアルカリイオン電解水だけで洗濯する技術は高梨のアイデアで、10年前に開店した直営1号店から導入しました。
御存知のとおりコインランドリーは無人店舗が基本の業態で、自動販売機のように24時間365日いつでも使えるサービスです。そのため、いつ、どのようなお客様が、どのように使っているかが分かりにくく、機器の使用状況や空き状況なども分かりませんでしたし、機器が故障しても気づくまでに時間がかかりました。お客様に割引サービスを提供しようと思っても、店舗に出向き直接機器を操作して価格設定を変える以外に方法がありませんでした。
当時のコインランドリー業界では、それが当たり前だったかもしれませんが、初めて業界に踏み込んだ我々にとっては、不便で仕方ありませんでした。それなら、自分たちで便利なシステムを作ってしまおうと考えたのがきっかけです。

サービスの特徴は、BtoBtoCプラットフォームであることです。弊社が全国のコインランドリー店舗に「Smart Laundry」を提供することで、各店舗のオーナーは遠隔で店舗を管理することが可能になります。店舗の状況確認や、遠隔操作によるエラーの一次対応などが可能になるので、業務効率が大幅にアップします。また、リアルタイムでの売上確認やキャッシュレス決済、割引クーポンなどのお客様キャンペーンも可能です。お客様は、専用のスマートフォンアプリを使い、店舗の混み具合の確認や洗濯終了通知の受け取り、割引サービスの使用、洗濯機のドアロック、ガラス部分のブラインド化など、様々なサービスを利用することができます。

他の類似サービスとの相違点は、コインランドリー向けプラットフォームの先駆者として、一歩先行している点だと思います。「Smart Laundry」をリリースして5年経ちますが、今では全国290以上のコインランドリー店舗で採用されており、スマートフォンアプリは23万件以上ダウンロードされています。アプリについては、利用者が使いやすいよう常にアップデートを続けています。洗濯機器に取り付けられた大型タッチパネルとのシステム連携や、ダイナミックプライシングも実現しています。

●利用者からの評判はいかがですか。

【wash-plus 加藤様】
リリース当初は、そんなシステム本当に必要なの?と言うオーナーもいましたし、自前の販路も持っていなかったので、コインランドリー機器メーカーの山本製作所様が販売する商品に付随させる形をとりました。導入が進むにつれて、コインランドリー経営になくてはならないシステムとして認識いただくようになり、今では「Smart Laundry」の利用を目的に山本製作所様の機器を購入するオーナーも現れるようになりました。各店舗で「Smart Laundry」を使ったお客様へのアプローチが定着してきたからだと思います。

●サービスを提供するにあたり、データの収集や分析をどのように行っていますか。

【wash-plus 加藤様】
Smart Laundry」はクラウドサービスですから、店舗の機械運転履歴については細かく保存しており、そのデータは膨大です。次の表は一例ですが、さまざまな角度から各店舗の実態を分析し、次期店舗の出店や、お客様へのアプローチ方法、売上向上方策の検討のためにオーナーに活用してもらうことを考えています。
自分の店舗の利用データを、他の人には見せたくないというオーナーもいるので、データはオーナー毎に区切って閲覧できるようにしています。

表 データ活用の例

利用タイミング
    1.  月別利用の傾向
    2.  曜日別利用の傾向
    3.  時間帯別利用の傾向
    4.  曜日別・時間帯別利用の傾向
    5.  放置時間傾向

稼働率傾向
    1.  時間帯別稼働率
    2.  機械台数比率
    3.  機械比率別の稼働率
    4.  放置時間別・稼働率

顧客属性(会員データ)
    1.  性別の傾向
    2.  性別・年齢別の傾向
    3.  年齢別・利用機械別の傾向
    4.  年間利用回数の傾向
    5.  利用回数・売上構成比の傾向
    6.  機械の利用傾向
    7. 現金・キャッシュレス決済比率の傾向

●様々なデータを扱う中で、気象データを扱うのは難しかったでしょうか。

【wash-plus 加藤様】
気象データの取り扱いに慣れていないからこそ、Weather Data Scienceに依頼しました。学習エンジンまでコンポーネント化してもらったので、実装はそんなに難しくなくできました。
一方、Weather Data Scienceのような専門性を持った人を探すことは大変でした。
洗濯行為は日常生活の一部ですので、気象と関係があることは以前から感じていましたし、日々の利用データからも、黄砂や花粉、季節や暦などと関係があることは感覚としては持っていましたが、変動因子を説明できるほどの確証はありませんでした。また、利用データを活用したダイナミックプライシングサービスの構想も持っていましたが、膨大なデータを解析する手段がなかったため外部に頼ることにしました。
展示会でいくつかの企業と話をしましたが、どの会社からも、どのようなデータ分析結果が出るかはやってみないと分からないと言われ、その場合でも何百万円もの投資が必要になるとのことで、なかなか実施判断に踏み切れませんでした。
そんな中、WXBCとの関わりから、気象データアナリスト育成講座の立ち上げに携わっていたWeather Data Scienceと知り合い、講座コンテンツ作成用にコインランドリーの実データを提供したのがきっかけで、Weather Data Scienceと協業することになりました。

●次にWeather Data Science様に伺います。まず、会社を立ち上げたきっかけと、主な事業について教えていただけますか。

【WDS 加藤ご夫妻】
もともと民間気象会社に勤務していて、予報業務や気象データを活用した予報プロダクト開発などの経験を積みました。
その後、航空会社での航務業務や、エネルギーベンチャーでの太陽光発電予測モデル開発など、気象会社での実務経験を活かして働いていました。
2015年頃に初めて『データサイエンティスト』という職業の存在を知りインパクトを受けたものの、日々の仕事の中で頭の片隅に追いやってしまっていました。
2017年頃から気象業界でもAIや気象ビッグデータといった言葉を耳にするようになり、気になっていたところ、2018年頃データミックスの堅田さんのweb記事で『データサイエンティスト』と再会。
その記事には、ビジネスデータを分析することで生産性を向上させることができると書いてあり、ならば「データサイエンスと気象を組み合わせればビジネス予測も可能なはず!きっとニーズがあるはずだ!」と直感し、データミックスでデータサイエンスを学ぶことにしました。
講座終了後、フリーランスの気象予報士・データサイエンティストとして独立し、いただいた仕事を続けていたら、いつのまにか法人化することになった、という感じです。
主な事業は、気象に左右されるビジネスに対し、気象データを活用したデータ分析やAI開発を通して、クライアントと伴走しながら課題解決することです。

wash-plusとの協業で、Weather Data Scienceが果たしている役割は何でしょうか。

【WDS 加藤ご夫妻】
気象データとコインランドリーのデータを合わせて、気象条件と需要の変化の関係を分析し、ダイナミックプライシングのための需要予測システムを開発するところを担当しました。他にも気象ドリブンな分析領域だけでなく、利用者の動態データを分析したり、UIデザインのアイデア出しなど積極的に提案させていただきました。

●「Smart Laundry」では、どのように仮説をたてて、データの分析に取り組みましたか。

【WDS 加藤ご夫妻】
気象条件に季節差や地域差があるように、気象と相関があるコインランドリーにも季節差や地域差があると考えて分析を行いました。データは気象庁の数値予報データや他の研究機関の気象データなどから、分析目的に対して最適なデータを厳選して活用しました。

【wash-plus 加藤様】
色々試行錯誤しました。地域性、季節性、湿度など、感覚的に持っていたものを試しました。乾燥機、洗濯機それぞれの需要についても分析しました。

●データ分析の過程で難しかった点はありますか。

【WDS 加藤ご夫妻】
日本全国にある店舗の周辺環境の違いや地域差を踏まえて、どのように需要を予測するか、予測モデルを組み立てるところが難しかったです。ただ、気象との関連が強いことは作りながら分かりましたので、取り組んでいて面白かったです。

Weather Data Scienceの協力を得た効果はいかがですか。

【wash-plus 加藤様】
コインランドリーを経営していれば、肌感覚で天気と売上の関係性は必ず感じます。この感覚的なものを数値化できたことは、業界にとって非常に重要な成果が得られたと考えています。Weather Data Scienceは、データ解析もできるし、気象の知識も持っているので、非常に心強かったです。

wash-plusとの協業以外では、最近はどのような取り組みをしていますか。

【WDS 加藤ご夫妻】
フェージング(※)発生予測の取り組みでNHKとご一緒したり、自社で太陽光発電予報のウェブサイトを開設したりしました。
気象データアナリスト育成講座には、引き続き講師として関わっています。
また、講演のご依頼や、気象データ処理など単発の仕事をいただいたりすることもあります。

※フェージング
テレビの送信所から受信点までの距離が比較的大きい場合に、電波が伝搬する通路又は通路上の大気の媒質が気象条件などにより変動することによって、受信される電波の強さが変化し、安定して放送波の受信ができなくなる現象(総務省HPより)

●日本では、気象データに限らず、データ活用そのものが進んでいないように思います。その理由や、データ活用を進めるために必要なことは何でしょうか。

【WDS 加藤ご夫妻】
失敗を許さない日本の文化の中では、費用対効果が得られる確証がないとやらないという判断がくだされることが多いように思います。実際、気象データを活用したAI開発のご相談を受ける中で、誠実に「やってみないと分からない」と答えると、リスクをとってでも挑戦してみるという意思決定はなかなか難しいのかなと思う場面に遭遇することがあります。逆に言いますと、実事例で費用対効果を示した事例を積み重ねて共有していくことで、気象データの活用も進むのではないかと期待しています。

【wash-plus 加藤様】
やはり費用対効果の問題が大きいかと思います。
データを集めるのは簡単ですが、膨大なデータから正しいデータを抽出するにも労力(コスト)がかかります。分析したデータが、ビジネスにどのようにつながっているか把握しなければなりませんし、そこに価値を見いだせないかもしれないといったリスクを許容できないのが問題だと思います。
今回のコインランドリーでの取り組みは、天気とランドリーの相関性がある程度想像できた中での答え合わせだったので、そこまでリスクは感じませんでした。

●企業や行政機関などでデータ活用が進めば、気象データも自ずと活用されると考えていいでしょうか。

【WDS 加藤ご夫妻】
データ活用の機運が高まることはもちろん必要ですが、企業や行政機関で気象データを活用しようと積極的に動く人材、つまり気象データアナリストの存在も重要になると思います。

【wash-plus 加藤様】
企業や行政機関などでデータ活用が進めば、気象データも活用されるようになると思います。しかし、その際にデータの取り扱いに関する昔ながらのルールや法律(あるかどうかわかりませんが…)がデータ活用を阻害することがあるかもしれません。データの利用料金や取り扱いのしやすさにも注意が必要だと思います。

●気象データは他のデータと違って、収集や活用に、コツや知識が必要だと思います。どのような支援策があるといいですか。

【WDS 加藤ご夫妻】
現在の気象庁のデータカタログは網羅性に優れていますが、各データの内容についての解説が乏しいので、ユーザーが「このデータは自分がほしいデータかどうか」を判断しにくい内容になっている点が課題です。またそのデータの入手方法に関する情報がないのも課題です。これらの課題を改善していけば、気象データを収集・活用したいユーザーに大きく貢献できると思います。

【wash-plus 加藤様】
気象データをビジネスに活用する際の補助金などがあると嬉しいです。

●気象庁や気象サービス事業者への要望はありますか。

【WDS 加藤ご夫妻、wash-plus 加藤様】
気象庁は予測精度の改善やデータの整備など、すでに様々な点でご尽力いただいていると思います。あえていうと、過去データへのアクセスがさらに容易になると嬉しいです。
また、気象サービス事業者の中にはAPIによるデータ入手が可能なサービスを提供されている事業者もありますが、ユーザーとしては一定期間のお試し利用ができると導入しやすいと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
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