WXBC人物図鑑<第2回>

気象データは様々なビジネスで活用されています。【WXBC人物図鑑】では組織の中で気象データを活用した業務に取り組む様々な人にフォーカスを当て、経歴や業務内容、今後の展望などを紹介します。第2回は、ANAホールディングス株式会社の松本さんです。

ANAホールディングス株式会社 グループ経営戦略室事業推進部

【主な経歴】
大学院修了後、全日本空輸株式会社に入社し、運航支援業務やパイロット向けマニュアル策定業務に携わる。
2017年 宇宙ビジネスアイデアコンテスト(S-Booster2017)大賞受賞
2018年からANAホールディングス株式会社にて宇宙事業を担当。乱気流予測等の新規事業開発に取り組む。

秘密基地遊びなど外で遊ぶことが多かったです。また、両親がマンガ好きで「ドラえもん」が全巻揃っていたので好きでよく読んでいました。小学校高学年のころは「ドラえもん」の世界が本当に実現できるのかということに興味をもち、当時流行し始めた「空想科学読本」に熱中しました。「どこでもドア」が実際にあったら・・・というエピソードは今でも覚えています。中学生時代は「タッチ」の影響もあって新体操部に所属していました。

学生時代はどのような勉強をされていましたか。

高校時代は数学と物理に熱中し、ついその2科目に勉強が偏りがちになるほどでしたが、計算問題が解けたときの爽快感が好きでした。
大学では物理系の学科に進みましたが、高校までの物理と大学での物理のギャップに苦戦し、特に大学3年のゼミ選択は難航しました。そんな折、隣の情報学科で流体力学のシミュレーションを実施しているとの噂を聞き、気がついたときには数値シミュレーション研究室の教官の部屋をノックしていました。

学生時代に夢中になったことはありますか。

一番夢中になったのは、流体力学のシミュレーションです。プログラミングが好きで、集中し始めると食事も睡眠も忘れて取り組んでいました。
それから、アルバイト。様々な職種を経験しましたが、教授秘書として多くのプレゼンテーション資料を作成したことや、飲食店でコミュニケーションスキルを磨いたことは、社会人になってからも役に立っています。高級焼肉店でのアルバイトはまかないもおいしかったのでおすすめです。

就職の際にANAを選ばれたきっかは。

ひとつは、流体力学のシミュレーションの中で航空機に興味を持ったこと、もうひとつは就職活動の中で出会った社員やOBの方の雰囲気に惹かれたことです。多様性を受け入れてくれる社風は自分に合っていると感じ、ずっとこの企業で働きたいと思いました。

天気とのかかわりはいつからでしょうか。

入社後、運航支援業務に携わるようになったことがきっかけです。運航支援業務は、航空機が安全・定時・快適に運航できるように、地上から様々な情報を収集・提供し、運航乗務員や関係部署をサポートします。気象状況の解析と情報提供が必要不可欠で、気象に関わる勉強を開始しました。

業務の課題から新規事業の道へ

宇宙ビジネスアイデアコンテスト(S-Booster)2017の大賞を受賞されています。

S-BoosterにANAが協賛していて、社員もコンテストに参加してよいことになっていました。当時、業務として航空機の燃料削減方法を検討していたのですが、パイロットや地上職員の手による部分が大きく、実現に向けたハードルが高い状態でした。どうやったら運用可能な燃料削減策が広まるかを考えたとき、上空の気象データの観測精度を高めることを思いつき、気象衛星を利用するアイデアを提案しました。

乱気流予測に取り組むことになったきっかけと現状を教えてください。

2018年、ANAグループとして宇宙に関連する新規事業を検討することになり、メンバーに加わりました。社内ではほかに誰も宇宙事業に取り組んでいなかったこともあり、人脈作りや気象衛星ひまわりのデータ活用も念頭に、WXBCに入会しました。
最初に参加したWXBCの人材育成WGで偶然席が隣だった慶應大学の宮本先生との出会いが、AI(深層学習)を用いて乱気流を予測する共同研究につながります。2018年から開始した研究ではAIを利用することで他予測と比較しても非常に高精度で乱気流を予測できることを確認し、ANAグループ所属パイロットによる4年間のトライアル利用を経て、2025年7月からANAでの本運用が開始されました。

最先端の技術と伝統的な学問の融合を目指して

今後、どんな仕事をしていきたいですか。

新しい技術やデータと気象データを組み合わせることで引き続き社会課題の解決を目指したいと考えています。
業務のひとつとして航空機から温室効果ガスを観測する取り組みを推進していますが、自分たちが減らしたことが目に見えるようになると良いと思っています。学生時代の流体力学もそうですが、目に見えないものを見えるようにすることが好きなんだと思います。

気象学や気象データに興味を持つ若い方に一言ありますか。

宮本先生との研究の中で学び感じたこととして、AIでは完全に物理法則で示すことが難しい部分もあり、学問の観点からはモヤモヤする部分も多くあると思っています。
今後、AIの結果を元に新たな物理法則を解明することができ、それが気象学に反映されるといったサイクルが作られていく可能性もあるのかなと思っており、最先端の技術と伝統的な学問が融合する、気象学はとてもワクワクする分野だと思っています。長年培われてきた物理法則に基づく気象学の深い知識と、社会課題を目指したAIなどの新しいツールを使いこなすデータサイエンスの力、様々な分野の方々とつながりを通じて、より良い未来を目指して行けたらと思っています。